このページの内容は、「中国法令集(会社法・手形小切手法・税法編)」に収録された付録「中国法の形式」の部分を改訂したものです。HTMLで構成する都合上、主席令の中国語原文などを省略しました。(文責:Donkie)
Copyright (C) 1999-2000 Pacific Engineering Co. All Rights Reserved. 各種の法形式とその形式的効力等は、別に準備中の「憲法・国家組織法編」で解説する。ここでは、法令名を単純に日本語に置き換えたときに生じる誤解を避けるため、「〜法」、「〜条例」、「〜実施細則」等の名称と公布形式の概略を説明したい。
「〜法」は、全国人民代表大会またはその常務委員会で決議された狭義の法律(注1で、最近の例では公布文を付して主席令で公布されている。たとえば、外資企業法の公布文は、次のようなものになっている。
中華人民共和国外資企業法(外資企業法)が中華人民共和国第6期全国人民代表大会第4次会議(注2で1986年4月12日に可決された。ここに公布し、公布の日から施行する。 中華人民共和国主席 李先念 1986年4月12日 |
注1)憲法の条文上では、「基本的な法律(憲法62条3号)」、「その他の法律(憲法67条2号)」が区別される。前者は、その制定権が全国人民代表大会に留保されている法律で、全国人民代表大会常務委員会は、「基本原則に抵触しない限度で、部分的な補充と改正(67条3号)」を行う権限のみがある。後者は、全国人民代表大会常務委員会が制定、改廃することができる。「基本的な法律」に属する法律は、その条文中に「この法律の改正は、全国人民代表大会の権限に属する」とする規定が設けられることが多い(香港基本法159条、中外合資経営企業法15条等)。改廃手続きを厳格にすることによる一種の制度的保障と考えることができる。
注2)全国人民代表大会の会議は「第X届全国人民代表大会第Y次会議」として特定される。「第X届」のXは原則として5年ごとの改選に応じて数字が変わり、現在は「第9届」。
「〜条例」は、現代日本では、地方公共団体の立法に専用される名称となっているが、言葉の意味は、「条文形式による規則」である。中国では、国務院令に用いられることが多い。もちろん国家レベルの行政命令(行政法規と言われる)で、地方性法規と言われる地方法ではない。国務院以外の国家機関の行政命令は、「〜規則」、「〜細則」などの名称を有するものが多い。しかし、これらの行政命令の名称は、法形式を区別する意味を持たず、単にその内容を表示しているに過ぎない。実際、「〜辧法」(「辧法」、常用漢字では「弁法」、本書ではすべて「方法」と訳出した)、「〜制度」、「〜準則」などの名称を有することも多い。
狭義の法律の改正は、「関于修改〜法的決定(〜法の改正に関する決定)」という名称で、主席令で公布されることを例とする。改正後の法律の全文が公布されることはなく、単に改正点のみを列挙し、最後に「〜法根拠本決定相応的修正,重新公布(〜法はこの決定によって相応に修正され、改めて公布する)」という一文が付される。以下の例は、1990年の中外合資経営企業法の改正の公布文が付された改正決定の一部である。
「全国人民代表大会の「中華人民共和国中外合資経営企業法(中外合資経営企業法)」の改正に関する決定が中華人民共和国第7回全国人民代表大会第3次会議で1990年4月4日に可決された。ここに公布し、公布の日から施行する。 中華人民共和国主席 楊尚昆 1990年4月4日
全国人民代表大会の「中華人民共和国中外合資経営企業法」の改正に関する決定
第7回全国人民代表大会第3次会議は、国務院の「中華人民共和国中外合資経営企業法修正案(草案)」の議案を審議し、「中華人民共和国中外合資経営企業法」に対し、以下の修正を行う旨、決定する。 |
狭義の法律以外の行政法規も、単に改正点のみが列挙された形式で公布されることが多い。改正点を織り込んで改正された法律の全文の構成は、法令集の編集者の重要な仕事である。
改正に関して、日本の慣例と異なる点は、法令の途中に条文を追加する際、常に挿入された条文の後の条の番号が変わることである。たとえば、第2条の後に第3条を追加すると、元の第3条は、第4条となって、以降の条文の番号が繰り下がる。条文が削除される際は、逆に以下の条文の番号が繰り上がる。
日本の慣例では、この現象を避けるため、第2条の後に1条を追加すると、第3条とせずに、第2条の2とする。削除するときは、以降の条文の番号を繰り上げずに、削除された条文は欠番とする。中国の法令は、改正ごとに条文の番号がずれることに注意しなければならない。