このページの内容は、「中国法令集(会社法・手形小切手法・税法編)」および近刊の中国法令集(憲法・民法・特許法著作権法編)」の内容を補筆したものです。(文責:Donkie)
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中国では、「国際私法」という単語は、「渉外関係の法律」という広義で使われることが多い。中華人民共和国外資企業法(外資企業法)などの渉外的な経済法規もすべて「国際私法」に含めて理解されている。これは、「渉外的な私法法律関係を規律する法規範」という広義の用法である。
日本でも、「国際私法」という単語が広義で用いられることもあるが、一般的には、「国際社会に存在し互いに抵触する複数の法規範のうち、特定の渉外法律関係に適用すべき法規範を定める規範」という狭義で用いられている。以下の説明も、この狭義の「国際私法」に関するものである。混乱を避けるため、できるだけ「抵触規定」の語を用いる。
近代的な抵触規定の理念は、それぞれの法律関係について「最も密接な関係のある地の法律」を適用することとされている。抵触規定は、行為能力、婚姻、養子縁組、相続などの法律関係ごとに、「行為地」や「当事者の住所地」などの連結点を選び出し、その準拠法を定めるという形式*1で規定されることが多い。
大陸法系の諸国では、この抵触規定を定める単行の法典を設けることもある一方、個別の民商事法典中に抵触規定を定めることもある。日本の「法例」は前者の例であり、中国の「民法通則第8章」は後者の例である。
ここでは、中国の抵触規定を概観するほか、便宜のため、関係する条文を一括して掲載する。
1* 通則的な民法典がなく、基本的な法律関係の規律を判例法に委ねる英米法系の国では、もっぱら国際的あるいは州際的な裁判管轄が規定されている。この場合、法廷地法の適用が前提にされているので、裁判管轄の規定が法廷地法の適用を定める抵触規定として機能している。逆に、日本法など、国際的な裁判管轄に関する明文規定をまったく欠く例もある。
中華人民共和国民法通則(民法通則)は、行為能力、不動産所有権、契約、不法行為、婚姻、相続に関する準拠法が規定されている。「密接関係地」を指定する連結点は、不動産所有権なら不動産所在地、不法行為ならその行為地などと定められている。その他の法律にも、抵触規定の特別の章または条文を設けられていることが多い。しかし、中国の抵触規定は、網羅的でなく、特に外国人が当事者になる場合の規定を欠くことが多い。たとえば、当事者の両方が外国人の場合の婚姻の成立や効力については何ら規定されていない。
「公序則(民法通則50条)」はあるが、「反致」の規定がない。これは、中国法への反致を否定する趣旨と解されている*2。なお、中国の国籍法は、中国人に二重国籍を認めないので(中華人民共和国国籍法3条)、「中国公民」に関しては「本国」は常に中国になる*3。
2* 中華人民共和国渉外合同法(1999年中華人民共和国合同法の施行にともない廃止)の行政解釈で、「当事者が選択し、若しくは、人民法院が最密接関係地原則にしたがって確定する紛争処理に適用される法律は、現行の実体法とし、抵触規定および手続法を含まない。」とされていた。また、統一手形法の影響を受けた中華人民共和国票据法(手形小切手法)も手形行為能力に関する反致・転致に関する規定を欠く(同法97条。日本の手形法88条参照)。中国の抵触規定は、イタリアなどと同様に、反致を認めない立法例と考えられる。
3* 最高人民法院の指示で、「重国籍の外国人は、最も密接な関係を有する国家の法律をその本国法とする」(最高人民法院民法印発《関於貫徹執行<中華人民共和国民法通則>若干問題的意見(試行)》的通知182)とされている。なお、中国では、最高人民法院の指示は、同種の事件の処理に関して裁判官を拘束する(憲法127条)。これらの指示(「..に関する意見」などの名称が多い)も抵触規定の重要な法源となる。
経済活動に伴う契約*4では、その準拠法を契約当事者の選択に任せることが、各国の抵触規定で広く採用されている原則である*5。中国の抵触規定も、この原則を採用するほか、補充的に「最も密接な関係を有する国家の法律」によることを定めている(民法通則145条)。もっとも、当事者の選択がその国の強行法規を免脱する意図による場合などは、その選択を認めないことなどが考えられるが、明文規定はない。
不法行為は、その行為地法による(民法通則146条)。事務管理、不当利得の準拠法に関する規定はない。
4* この「契約」には、婚姻や養子縁組などの身分上の「契約」を含まない。
5* 日本の法例7条も当事者の意思を補充する規定と考えられている。
婚姻の成立は、両者が中国人の場合は中国法による。なお、両方の当事者が中国人でも、外国に定住する華僑の場合は、中国の在外公館に届け出る外交婚が認められているほか、その居住地の方式による婚姻も、明文規定がないが、現実には黙認されているようである。一方の当事者が外国人の場合は、婚姻の挙行地法(民法通則147条)による。中国の在外公館は、中国人と外国人の外交婚を受理しないことが多い。この場合は、中国人の戸籍地で婚姻登記を行うか居住地法の方式によることになる。双方当事者が外国人の場合に、中国法に基く婚姻は考えられていない。
離婚は法廷地法による(民法通則147条)。
両方が中国人 | 一方のみが中国人 | 両方が中国人でない | |
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方式の準拠法 | 中国法(在外華僑の婚姻の方式は居住地法によることが認められている) | 中国法または挙行地法 | 規定なし(挙行地法) |
実質的要件の準拠法 | 中国法 | 中国人に関しては中国法 | 規定なし |
その他 | 在外公館に届出をすることができる | 在外公館は受理しないことが多い | - |
「外国人が中国において養子縁組を行うときは、養子縁組法の規定に適合しなければならず、かつ養子の常居所地の法律に反してはならない」とされている。
扶養は、扶養権利者の最も密接な関係を有する国家の法律が準拠法とされる(民法通則148条)。
相続財産を動産と不動産に区分して準拠法をさだめる、動産は被相続人死亡時の居住地の法律を適用し、不動産は不動産所在地の法律を適用する(民法通則147条、相続法36条)。