小槍は、100mを超える大きな岩峰。しかし、これを下側から(千丈沢側から立ち上がる北西面など)登るのは、筆者の遠く及ぶところでない。今回は、小槍とそのすぐ上の岩峰である曾孫槍とのコル(以下、単に「コル」とする)を起点として、南面のフェースを登る。コルからの比高25m〜30m、『日本登山大系』の「小槍南面フェース右ルート」・・同書では図に名称だけ記載され解説の対象外・・にあたるか。(大きな山体の頂部の一角をトレースするだけ。山頂付近までバスで行く夏の乗鞍岳などと同列で、「登る」というにはやや後ろめたい。)
コルの1mほど下にピトンを固め打ちした支点(残置スリングあり)があるので(右図1)、これを開始点とする。なお、開始点の10m下、コルへの登り口にもピトンの固め打ち(残置スリングなし)があるが、コルまではロープ不要なので、これは使わない。開始点の上がややかぶっているが、ルートは、フェース右端のカンテライン(または東面)を使って、このオーバーハングを避けている(直上3m)。ここからバンドを左にトラバース(3m)し、垂直に伸びるチムニー状のクラック(右図2)に達する(そのままカンテを直上する残置もある)。(チムニーには入らず)左右の壁を使って登ると(10m)、再びフェースの右端に出て、ちょっとしたテラス(右図3)。固め打ちのピトンをスリングで連結した確保支点がある。その少し上にも(5m)確保支点があり、50mロープなら、このあたりで半分。そこから左にトラバース(2m)。その上は傾斜が緩むので、適当に登ると(直上5m)、山頂の一角(右図4)、東端(南面フェース右端)の懸垂支点(自然の岩角におびただしいスリングを巻きつけたもの・・ボロボロのスリングもあって打ち足したくなるが、その場合は古いものを整理したい)に達する。これが事実上の終了点で、そこからピークの最高点(北西端)までは歩いて行ける。
ラインは著しく屈曲するので(筆者が下手で、右に左に難しいところを避けただけかも)、通常のリード・フォローのシステムなら、ダブルロープが適当と思われる。シングルロープなら、最初の確保支点(フェース右端のテラス)に達するまでに、ロープの流れが悪くなりそう(この点は、ロープを流さないソロに有利)。ランニング用の残置ピトンはベタではないが充分。1ピッチで登る場合は、カラビナ(ヌンチャク)が10枚程度は必要。
本文にも書いたが、岩は非常に堅く安定している(浮いたホールドなどはなかった)。ただし、山頂部は傾斜がないので、大きいもので座布団サイズのザレが積み重なっている。南側への落石は、開始点にいるビレーヤーを直撃する可能性があるので、パーティーで登るときは、全員が終了点に着くまで、山頂部を歩き回らない方がよい。
「核心」というほどでもなさそうだが、筆者は最初のトラバースで緊張した。ハングで下が見えない。落ちて宙吊りになっても、ビレーヤーがいれば、ロープは半分も出ていない場所なので、ロワーダウンでわけもなく降ろしてくれるはずだが、ソロだと・・である。