2010以降へ



星穴岳(2009.11.7)

 週の前半は冬型で、各地で冠雪。東京の高尾山系でも、陣馬山(標高約800m)は雪。しかし、高気圧が東進すると、週末は一転して初秋の陽気。この機会を利用して、妙義星穴岳の偵察(初見)。

 11/7(土) 未明に中之岳神社前の県営駐車場。こんな時刻なのに、10台以上が駐車している。薄明の中、6:00頃に出発。神社の階段を登る。山道に入って少し登ると、上に男性2名のパーティー(軽装なのでたぶん星穴岳方面でない)。これが、山中で見た唯一の人影。
 すぐに稜線の鞍部(西岳と中之岳のコル)。ここで何本かの立入禁止ロープをまたいで、西岳方面へ進む。道はよく踏まれた登山道。すぐにトラロープのある3mほどの壁になる。ホールドは大きいが、登山靴で磨かれている。用心のため、フラットソールに履き替えるが、問題なく数秒で通過。その先、ちょっとしたナイフリッジを越えて、ふたたび小さな壁。今度はアプローチシューズのまま通過する。登りついた場所が西岳頂上らしい(近くにこれより高いピークがない)。すぐ先に星穴岳が見える(7:00、駐車場からここまで1h)。
 ここから星穴岳との鞍部に向けて下り。やや北方向に尾根をたどると、すぐに急降下。泥斜面で足元が定まらないので、ロープを出して少し懸垂。あとは、マーキングをたどって歩くだけ。星穴岳基部にあたると、稜線越しに3mほど登り、フィックスのある南壁を少しトラバース。藪を登ると、岩小屋状のハング下に出る。ここから、南壁の大トラバース。といっても、下が切れているだけで、歩きやすい土の道。最後は、通過不能になるので、5mほど直上して稜線に出る。稜線には懸垂支点があるが、どこに降りるかわからないので、稜線を行けるだけ行って、地形を把握するしかない(懸垂の登り返しは疲れる)。そのまま前進。すぐに岩峰にあたって、北方向に急降下(フィックスもあるが体重をかける可能性があるときは、手の皮より下降器でロープを操作したほうが痛くないので、自分のロープで懸垂)、岩峰基部の北側をトラバースして(歩きやすい道)、次のコルへ。朽ちた指導標がある。ここにも懸垂支点。さらにピークを登ると、これが星穴岳本峰(最高点)らしい(10:00前)。
 この先、踏み跡はないが、少し懸垂を交えれば、下まで降りられそう。そうすれば星穴岳稜線の完全縦走になる。しかし、降りてしまうと、むすび穴(大小2つの風穴のうち、大きい方をこう呼ぶらしい)には行けないだろう。少し戻って、指導標のあるコル。ここにある懸垂支点がむすび穴への降り口らしいと見定めて、下降を決意する。北側は絶壁だが、南側は20mほど下に土のテラスが見えている。ロープ1本で足りそうだが、その先もさらに懸垂が必要で支点がない(潅木なし!)などの状況も考えられる。念のため、ロープ2本を連結して懸垂(もちろん南側に)。最後は空中懸垂、といっても、空中懸垂はほんの数メートルだけ。右側を見ると、高さ10mぐらいある大きな風穴。これがむすび穴らしい。
 ロープ回収にやや手間取るが、10:30頃、風穴を離れて、下山開始。落ち葉の敷き詰められた樹林帯の斜面。ほとんど歩いて降りられるが、急斜面を避け、尾根状をたどると、随所で尾根が途切れて懸垂を強いられる。ロープが枝にからまり、意外に時間がかかる。最後は、コンクリート吹きつけの擁壁を懸垂で降りて、中之岳神社から1kmほど下の車道に出る(11:50)。
 終日快晴。稜線は、ビニールテープのマーキングも多数。結び目のコブを等間隔に作ったフィックスロープを設置したりしているので、よほどのリピーターか、それとも、頻繁に客を同伴するガイドか・・。いずれにしても、予想外によく踏まれている。核心は、むすび穴から下の樹林帯か。下りのほうに時間がかかっている(駐車場から西岳まで1h、その先の稜線に3h、下りに1.5hほど)。それでも、絶好のコンディションで、懸垂以外にはロープを出さなかったので、午前中に終了。(単独、ロープ9mmx50m2本他)



槍ヶ岳北鎌尾根と小槍(2009.9.26-9.28)

 軽装ハイキング(赤木沢)や日帰りもの(マチガ沢)などが続いたので、やや体力系の縦走を・・というのは、後で思いついた理由づけ。実は、上高地に着いてから行き先を決めるという行き当たりばったり。前週のマチガ沢のあと、ぬれた沢タビを抜いただけで、ザックの整理もしていない。事前の情報収集がないので、未知ルートは難しい。足は自然に例年のコース、北鎌尾根に向かう。

 9/26(土) 上高地をスタート(5:00)。ザックは水なしで20kg超。ゆっくり歩くと、ザックが肩に食い込む。早足で、横尾・槍沢ロッジを経て、水俣乗越へ(10:45)。そのまま天上沢に下降、正午ころに北鎌沢出会い。立ち止まらずに北鎌沢を登る(左俣分岐付近で給水)。このあたりから、少し疲れ・・水でザックも重くなっている。ぺースダウンしながら稜線に(15:00)、少し前進して、天狗の腰掛の少し下のピークでテントを広げる(16:00頃)。ここまで(この先も)、ロープなんか使うわけないが、テント生活の枕にはなる。水俣乗越からここまで、誰にも会わない。ほぼ晴天で水俣乗越付近は、ウルシの紅葉。

 9/27(日) 4:30起床。ハーネスを装着して、5:00前に出発。ハーネスを実際に使うことはないだろうが、ギアでずっしり重いので、ザックの荷重分散にはなる。順調に進んだつもり(独標は巻いた)。しかし、重荷のため、やや時間がかかっている。10:30頃に山頂(穂先の最上段は祠の裏から)。途中で単独の男性と、山頂直下で3人パーティーに会う。
 当日中に下山できる時刻だったが、天候もよく、何となくもったいない気分になり、「ついでに小槍も」などと考え、槍ヶ岳山荘の前に荷物を放り出して、さっそく取り付きへ。3ヶ月前に登ったコース。前週、マチガ沢のぬれた岩で苦戦したので、乾いた槍の岩が非常に快適に感じられる。問題なく終了点。こんな場所で休んでも仕方ない(ギャラリーもいるので目立ちたくない)。すぐに降りようとするが、困った事態に。15mは余っているはずのロープが5mしかない。10mほど、途中で引っかかっているに違いない。終了点まで届いたから問題なかったものの、もし落ちていれば、それだけ墜落距離が伸びるはず。最悪はグランドフォール。まあ、岩が剥れない限り、落ちるような場所ではないが・・。5mでは、途中の確保支点までも降りられない。上端を固定して、いったん下まで降りて、ロープ下端の固定を外して登り返すのが通常の方法だろうが、メンドウ。5mしか残っていないロープで(上端を固定せず)、降りられるだけ降り、途中の残置ピトンで、架け替える。この支点は、ランニング用なので、バックアップなし。抜けたら終わりなので、体重をかけられない。確保支点まで10mほど慎重にクライムダウン。ここで、再度、ロープを架け替え、下まで・・。ついでに曾孫槍も偵察(ロープを張ったが歩いて行ける)。その上も簡単そうだったが、ソロなので登り返しが必要になるので、曾孫槍先のコルで引き返す。急いだつもりが、アプローチを含め2.5h、13:00を過ぎている。
 下山開始、16:30頃に横尾。上高地まで走れば、何とか間に合う時刻。翌日は平日の月曜日なので、当日中に下山したいが、翌日の半日なら休めなくもない。横尾山荘泊とする(テント持参・・しかし、食糧がない)。  

 9/28(月) 3:30起床。朝食ヌキですぐに出発、6:00前に上高地着。3日もかけたこともあって、前週のマチガ沢より、体感的にはずっと楽。(単独、テント装備、ロープ9mmx50m他)



マチガ沢東南稜(2009.9.19)

 この週は、カレンダーどおりに休めるなら5連休だが、ちょっとした所用と登山届の都合で、マチガ沢東南稜(谷川岳東面)の日帰りとする。初見だが、トポは見ている。「・・沢・・稜」という奇妙な名前。沢に稜線があるはずもないが、マチガ沢という大きな領域(西黒尾根と東尾根の間)の東南稜という小さな領域(オキの耳の東南側の稜)という意味らしい。なお、このルートは、県遭難防止条例の「危険地区」で、登山届または登山計画書の事前提出が必要なので、安易な計画変更ができない。(-->県遭難防止条例

 9/19(土) 連休中は車両規制で、ロープウェイ乗り場の少し先から車両通行止め。土合駅付近の空き地に駐車し、明るくなるまで、車中で仮眠する。
 6:00前にロープウェイの立体駐車場に移動、1階に駐車。そこから道路に出て歩く。30分でマチガ沢出会い(6:20)。とりあえず晴れているが、稜線はガスで見えない。巌剛新道を第一見晴しまで(6:50)。ここから、マチガ沢の沢筋に降りる(7:15)。
 降りた場所は、大滝の少し下。水流があるので沢タビに履き替えるが、明るく開けた河原状で、しばらくは、難しい滝がない。大滝も「30m」といわれるが、感覚的にはその半分ほどの規模。水流の左から登れる。ただ、沢の平均斜度は大きく、小さな釜のある滝(右から登る)など、滝が連続し、疲れるだけでなく、時間もかかる。左岸の北斜面には、融け残り雪渓もある。やがて、やや難しい滝。水流沿いの大きく傾いたバンドが登路らしいが、靴でつるつるに磨かれている。沢タビでは滑るので、アプローチシューズに履き替え、残置ピトンにヌンチャクをかけてA0でクリア(ロープは使わない)。ここで手間取っている間に、後続の6人パーティーに追い越される(6人パーティーはロープを出して突破していた)。この先、両岸の草付き斜面が迫ってくると、東南稜の取り付き。6人パーティーのラストが登っている間に到着(10:45)。フラットソールに履き替えて準備する。
 1P目、正面の凹角。細かくはないが、スタンスはすべて外傾し、フラットソールが滑る。10mほどで傾斜が強くなってチムニー状。背中で体を支えながらずり上がる。この抜け口の濡れたスラブが核心らしい。足元が信用できず、残置スリングをつかんでA0(20〜25m)。2P目も凹角だが、1P目より易しい(右手のフェースにもラインが見えるが難しそう)。ソロなので各ピッチ登り返しが必要。ロープ半分以下のほうが懸垂に好都合なので、凹角を抜けたところで早めにピッチを切る(15m)。3P目、前のピッチを早く切ったので歩くだけだが、足元が信用できないのでロープを使う(15m)。4P目、フェースを少し登ってから、バンドを5mほど左にトラバースしてリッジに出る。この先は、快適な岩稜登り。ほぼロープいっぱいまで伸ばして終了(45m)。
 岩場としては緩傾斜。ちょっと見えにくいが、手を伸ばしてさがせば、ガバも豊富にある。しかし、岩が滑るので、リード(ソロ)の場合、思い切って登れない。少なくとも、見た目よりずっと難しい。2P目では、登り返しの間に後続3人パーティーに先を譲る(というより、中途半端な場所でピッチを切った筆者の横を通り過ぎる)。最後のピッチは、ロープを伸ばし過ぎ、懸垂で開始点に戻るのに苦労。東南稜に取り付いてから時計を見ていなかったが、オキの耳直下の草付きで16:00頃。筆者が下手なこともあって、非常に時間がかかる。
 靴を履き替え、草付きを登ると、オキの耳とトマの耳の間の縦走路(16:20)。日没が迫っているので、立ち止まらずに下山開始。何とか明るいうちにザンゲ岩を下る。巌剛新道の樹林に入ったところでヘッデンを出す。LED1灯の暗いランプなので、スピードが出せない。巌剛新道入口まで戻り、林道を歩いて、ロープウェイの駐車場に着いたのが20:00過ぎ。非常に疲れた。(単独、テント装備・・使わなかった、ロープ9mmx50m他)



赤木沢(2009.8.29-8.30)

 重荷にいささか疲れたので、この週は、ロープ不要のコースと考え、黒部川源流の赤木沢とする。東京では晴れなので、まったく予想していなかったが、「前線南下中」とかで、北陸は悪天候。あれれ・・

 8/29(土) 日付が変わる頃、有峰林道の飛騨側ゲート前に駐車し、仮眠する。目が覚めると、やや強い雨。このまま撤退かと迷いながらも、5:55、ゲートが開くと、後ろに並んでいるクルマに押し込まれるように有峰林道に。6:40折立着。30分ほど、車中で雨を見ていたが、やや小降りになったので、意を決して出発する(7:15)。9:30頃、太郎平。荷が軽いと休憩しようという気にならない。そのまま薬師沢小屋へ。ここからは下り坂だが、雨にぬれた木道はすべる。11:10、薬師沢小屋に着く。
 小屋のテラスで沢タビに履き替えている間に、雨がやむ(このあと、終日曇り)。ハシゴを降りて黒部川の河原に。水量が多いか少ないか、初めてなのでわかるはずもないが、歩くのに支障があるほどでもない。ほとんどがヒザ下までの渡渉と単調な河原歩きだが、高巻き1回、そして、何箇所かで腰まで水につかる。1.5h、12:40に赤木沢出会い。左岸をへつって、赤木沢に入る。ここまで、男性2人のパーティーに会っただけ。「コルまで」とのことなので、下から継続で、岩苔乗越を目指しているらしい。
 赤木沢は、数メートルの滝を連ねている。滝は、45度ほどの傾斜で、水量も多い。滑りやすいスラブなら苦戦するはずだが、この沢の楽しさは、一見すると難しそうな滝が、実際には易しいという意外性。ほとんどの滝は、階段状というより、幅広のひな壇状で、手をほとんど使わない程度の容易さ。また、上空の開けた明るい沢相で、両岸の草付きに逃げることも簡単(大滝までの高巻きは1箇所)。
 標高差500m程度。長いコースではない。出会いから1h強で大きな崖が見える。近づくと、予想どおり、この崖から大滝。右側の小尾根状から大滝の上に出ると、一気に水量が減る。やがて源流の様相。多数の枝沢があるので、適当なものを登る。水涸れ。そして、ガレとお花畑を歩き、稜線の縦走路。赤木岳の少し手前側(黒部五郎寄り)に飛び出す(15:40頃)。
 あとは、縦走路を歩くだけだが、予想より時間がかかり、17:30過ぎ、ほぼ夕食の終わる頃に太郎平小屋着。この時刻から下山しても、有峰林道のゲートが開く翌朝まで車中で動けない。日帰りをあきらめ、小屋泊。午後になってから幕営禁止場所に入渓しようとする人は少ないらしい。赤木沢出会いから先、太郎山まで、誰にも会わない。

 8/30(日) 4:00起床。すぐに下山開始(朝食ヌキ)。三角点付近でヘッデン不要に。この日も曇りだが、晴れ間も見える。6:00過ぎに折立着。(単独)



小同心クラック(2009.8.22-8.23)

 八ヶ岳、横岳西壁の小同心クラック。前週に続いて、上高地入りを考え、沢渡駐車場に行くが、未明の雨で出鼻をくじかれる。雨はすぐにやむが、気がつくと7:00近い。こんな時刻からだと、槍・穂高の稜線に出ても何もできない。仕方がないので「軽いコース」へ転進を考え、沢渡から美濃戸へ移動。小同心は、クルマで移動中の思いつきで、初見。

 8/22(土) 9:30頃、美濃戸の赤岳山荘駐車場発。11:00前に赤岳鉱泉に着いてテントを張る。やや軽くなったザックで出発する。赤岳鉱泉から硫黄岳への登山道を数分進むと、「大同心沢」と書かれた指導標のある沢を横切る。これは、大同心と小同心の間を源頭とする沢。登山道を離れ、ロープをくぐってこの沢筋に入る。ほとんど水流がない沢を100mさかのぼると、再びロープ。これもくぐって前進すると、その先、踏み跡は沢の右岸の尾根(大同心稜)に。想像以上に立派な登山道で(地蔵尾根の一般路より歩きやすいぐらい)、約1hで大同心岩峰の基部。ここから、大同心沢の源頭に向かってガレ場を少し下り、対岸の草付きを上り返すと、小同心正面の広い草付きテラス。
 目的は「小同心クラック」だが、クラックらしいものはない。ただ、登路は一目瞭然。小同心左岩峰正面(西側)は、50mを少し超える高さの岩壁。このほぼ中央に伸びる浅い岩溝を「クラック」と呼んでいるらしい(上部ではやや深い岩溝となる)。フラットソールに履き替えて取り付く(12:30)。
 開始点には、ピトンが1本打たれているだけ。見上げると、15mほど上にハンガーボルトが2本。ここまで容易そうなので、最初のピッチは、ロープをつけずに登る。ルートは左上。やや傾斜が強くなったところでピッチ終了。ここでロープを出す。この上は、10mほどの間隔でハンガーボルトの固め打ちがある(最初の1箇所を除き、スリングで連結されている)。しかし、ランニングがほとんど取れない。残置のピトンは数えるほど、スリングを巻きつけるほどのサイズの岩角も多くない。結局、ロープを使ったのは、3ピッチ。各ピッチ10m(ハンガーボルトを見つけるごとに短く切った)、その間、ランニングは平均1箇所ぐらい・・。最後のピッチはロープなしで登り、14:00過ぎに小同心ピーク。そのまま歩くと、ちょっとした岩場を越え、約5分で横岳頂上に着く。
 このコース、集塊岩でホールド豊富。岩溝が登路なので露出感もなく、一見すると非常に容易・・本来は冬ルートなので、フラットソールで登れば容易なのはアタリマエ。岩も非常に堅く安定している。しかし、緩急の変化があるので、緩斜面と思って安易にロープなしで登ると、途中から垂壁。そして、その抜け口(ホールドが少ない)で怖い思いをさせられる。残置支点は非常に少なく、それもピトンでなくボルト(リングボルトもある・・リスがほとんどないので、ピトンが使えず、ボルトしか打てない)。
 広い横岳山頂で、登山靴に履き替えて、硫黄岳方向に下山開始。ここまで誰にも会わなかったが、赤岳鉱泉への下りで、何人か追い抜く。16:30、赤岳鉱泉のテント場着。
 この日は、団体が赤岳鉱泉前で宴会。騒音でテント場は悲惨。暗くなっても降りられる場所なので、テントを撤収して帰ろうかとも迷う。19:00頃、完全に暗くなってから宴会終了。やっと静かになる。

 8/23(日) この日は下山だけ。急ぐこともないが、前夕の騒音もあり、このテント場に長居したくない。6:30出発。7:30前に赤岳山荘駐車場。(単独、テント装備、ロープ9mmx50m他)



表六百沢から六百山(2009.8.16)

 上高地の六百山を計画。中畠沢(河童橋のトイレ裏に出会う沢)をつめるコースがポピュラー。しかし、このコースは、単調なガレ場歩きらしい。それではタイクツなので、これは下りルートとして、かねて偵察したかった表六百沢を上りルートとする。表六百沢は、八右衛門沢から分岐し、霞沢岳K1と六百山三角点ピークとの間の稜線に突き上げている。六百山への登路として使えそうだが、ほとんど登られていないらしく、成功談も失敗談も見つからない(地形図のほか事前情報なし・・敗退の予感も)。アプローチは、「八右衛門沢から霞沢岳(2009.5.23-5.24)」の項を参照。なお、中畠沢と表六百沢は、1/25000地形図で沢筋を同定できるが、その名称は記載されていない(名称は『日本登山大系』による)。

 8/16(日) 5:10頃、帝国ホテル前をスタート。約10分で八右衛門沢と別れ、表六百沢へ。下部は幅20m近いガレ沢。ほとんど土砂に埋もれているが堰堤もある。少し歩くと、チョックストーンと倒木がつまった3mほどの涸滝がいくつも出てくる。水流のないこともあって、やや荒れた印象。ちょっとしたギャップを越せず、右側(左岸)の尾根に大きく高巻き・・200mほど進んでから、枝沢を50mほど下って本流に戻る・・など、時間がかかる。
 やがて両岸が迫ってくると、沢をふさぐ大岩の下をくぐりぬけるなど、地形も面白くなる。わずかに水流のあるナメ滝状もあって(傾斜は緩いが登山靴では苦戦)、「沢登り」の雰囲気に。ただ、筆者にとっては難しいワンポイントが多く、指の筋トレと股関節の柔軟体操に関しては、前週の八ツ峰側壁より効き目がありそう(疲れた)。表六百沢のツメはお花畑(花の好きな人には申し訳ないが、筆者は高山植物のお花畑を好まない。花が咲くのは虫を集めるため。そして、この虫は遠慮なく耳や口に飛び込んでくる・・)。ほぼ正午頃、稜線に飛び出す。
 あとは、稜線を歩くだけで六百山へ・・とはいかない。稜線は、ハイマツの密生。よくさがせば、古いゴミや残置支点など、かすかに人の形跡はある。しかし、激ヤブに踏み跡はない。苦しいヤブ漕ぎで、六百山までの500m足らずの距離に1.5h以上。13:45、六百山三角点。三角点の周囲だけ小さく刈り払われている。
 ここからは中畠沢コース。登山道と呼ぶにはやや細いが、ハイマツの間に立派な踏み跡。間違えそうな場所には、ビニールテープのマーキングもあるので、これを追って歩くだけ。この付近は準一般路で、悪い場所はない。やがて、中畠沢(右俣)源頭のコル。踏み跡が不明確になるが、コースは沢を見下ろす左岸の樹林帯。適当に歩ける場所を歩く(ときどきマーキング)。樹林帯を進めるだけ進んでから中畠沢の沢筋に下りる。中畠沢は、幅50mほどの広いガレで(水流はない)、上部はどこでも歩けるが、崩れやすいガレで神経を使う。下部で傾斜がなくなると、ブッシュになるので、右岸沿いの踏み跡をたどる。五千尺ホテルの屋根が間近に見えるようになると、大きな堰堤を2個、右岸から越える。16:00過ぎに、河童橋近くの遊歩道に出る。ここまで誰にも会わない。終日晴れ。(単独、ロープ9mmx50m他)



八ツ峰6峰Aフェース(2009.8.8-8.10)

 剣岳の八ツ峰側壁(6峰Cフェースなど・・できれば何本か)と考え、前月に続いて大町の扇沢へ(前月は雨で駐車場敗退)。

 8/8(土) 未明の雨がやんだので、アルペンルート始発のトロリーバス(6:30)。真砂沢ロッジが目標。内蔵助谷出会、ハシゴ谷乗越経由として、黒部ダムから歩き始める(道は悪いが、時間的には室堂経由と大差ないはず・・しかし、トロリーバス数台の乗客で、黒部ダムから歩き始めたのは4人だけ)。12:30頃に真砂沢ロッジ着。テント。小屋の前で休んでいると、オーナーから、「どこへ?」。「Cフェース」と答えると、「混雑するよ。ここの人たちは何日も天候待ちの沈殿!」と言われる。テントは10張りほどと少ないが、ほとんどが8人用などの超大型テント。ということは、縦走ではなく長期定着。大学山岳部(複数)らしいが、天候が回復したら、これだけでも数十人が、いっせいに八ツ峰やチンネなどの岩場に向かうはず。人気ルートは混雑必至。「それじゃA!」。「OK!」で、やや人気薄のAフェースへの転進も考慮する(初見でトポもないが・・)。曇り時々小雨。

 8/9(日) 3:00頃に目を覚ます。この時刻、星は見えないが雨はない。テントを放置したまま出発。長次郎谷の出会付近で明るくなる。途中、断続的な小雨で、引き返そうかと迷いながらも前進。6:00頃、5・6のコル下。ここまで雪渓はつながっている(右股は稜線までつながっていた)。Cフェースには、すでに取り付いているパーティーがいる。熊の岩はテント9張りで、ここからも何人か繰り出してくる。やはりCフェースは大混雑らしい。Aフェースへの転進を決める。Aフェース下の岩小屋では、男女2人の先行パーティーが準備中。筆者もフラットソールに履き替え、サブザックにロープ。余分な荷物を岩小屋にデポする。
 2人パーティーに続いてスタート。ホールドは、やや細かいが豊富。リッジ越しで露出感抜群だが、見た目ほど難しくない。しかし、岩が湿っている。おまけに、途中で小雨・・。3ピッチで山頂(Aフェースの頭)に出る(9:30頃)。ソロなので、各ピッチで登り返しが不可欠(小槍のようなシングルピッチで、同じルートを降りて終了なら、登り返し不要だが、これは例外)。そして、ピッチごとにロープをさばかなければならない・・時間がかかる。後続パーティー(R大の学生4人)には、お待たせ、申し訳ない。(-->ルート
 山頂は、平坦地はないが、数人が休憩できる広さはある。剣本峰は見えないが、ガスの間から、長次郎谷対岸に源冶郎尾根。懸垂で5・6のコルに降りてから、ガレ場をたどって(フラットソールで!)、取り付きの岩小屋に戻り登山靴に。Cフェースを見ると、途中のテラスで10人ほどが渋滞。Aフェースもさらに後続の2人パーティーが登っている。
 まだ早い時刻で「もう1本」と考えたいが、天候がよくない。「山頂」というにも中途半端な場所(Aフェースの頭)だが、登り返しを含めると、2回登ったことになり、結構な満腹感。撤収を決める(11:00)。長次郎谷雪渓を下り、約2hでテントに戻る。小屋のオーナーから焼酎をご馳走になり雑談(ソロは珍しいらしい・・というより、真砂沢ロッジは、テントの住人を客扱いしてくれるのがありがたい)。この日は、終日、曇り時々小雨。

 8/10(月) 未明に強い雨。このまま下山はもったいない気もするが、どうせ終日雨(台風9号が接近との情報)。実際にも、この日は「雨時々小雨」で降り止むことがない。数日待てば、台風一過の晴天も期待できるが、そんなに停滞もできない。雨の中でテントをたたむ。下山は、室堂まで上るより、黒部ダムまで下りるほうが早いので、迷うことなく往路を。途中、2パーティーほどと行き違う。11:30頃、黒部ダム着。そのままトロリーバスで扇沢に戻る。(単独、テント装備、ロープ9mmx50m他、アイゼン・アイスバイル)



御殿場口から富士山(2009.8.1)

 7月は全滅。穂高山域の某バリで、雪渓が切れたルンゼ状が難しく、アプローチに失敗して撤退したほかは、毎週ほど天候不順による駐車場敗退。この週も、土曜日(8/1)の午後から雨の予報。使えるのは半日だけらしく、これでは小川山などのゲレンデも楽しめない。発想を転換し、午前中に下山できる場所・・となると、関東周辺では富士山。全国的にも珍しい24h営業なので、午前中といわず、その気なら未明にも下山できる。登山口では、御殿場口が便利だろう。標高差は馬返からの吉田口と大差ないが、樹林がないので歩きやすい(大砂走り!)。また、人口密度が低く、混雑と無縁。

 8/1(土) ほぼ0時に御殿場口の駐車場に。20台ほど駐車している。そのまま歩き始める。ザックは、重いロープやギアを取り出して、かわりに軽い防寒具を詰めたもの(たぶん5kg以下)。ザックが軽いと足取りも軽い。漆黒の闇だが、LED1灯の暗いヘッデンで不便を感じない。途中で霧雨。冬用のヤッケを着る。スペーサーとしてザックに押し込んできたものだが、ポケットには、手袋(インナーだけ)、ウールの帽子・・など、これだけでビバークできるほどの冬用の予備小物が入っている。夏の防寒には充分すぎる。
 4:00前には薄明。雲海を抜けると霧雨はやむが、上空も高曇り。途中、小屋前で休憩している数人を抜いただけ。さすがに不人気コース。閑散としている。6:00過ぎに、下山の数パーティーと行き違ってから、すぐに山頂の一角。そのまま剣ヶ峰へ。山頂標の前で記念撮影待ちの行列。剣ヶ峰下の雪渓は、ロープ(立入りを制限していたのか?)をまたいで通過。時計回りに火口を周回して7:00前に下山開始。火山灰の道はすべるが、これを許容してバランスを取れば、実際には歩きやすい。途中で、迷彩服の一団を追い越す。後で知ったが、この翌日は富士登山駅伝で、そのサポート要員らしい。「大砂走り」を一気に走って、8:30頃、駐車場着。1.5hで下山したことになる。帰路、西伊豆の海岸に立ち寄り、温泉のかわりに、少し泳ぐ。このコースは、甲斐駒黒戸尾根を超える標高差だが、比べものにならないほど楽である。(単独)



小槍(2009.6.27-6.28)

 梅雨の晴れ間、ねらっていた小槍に(-->ルートアプローチ)。人気の山頂でもなさそうだが、こんな場所に先客がいたら、降りてくるまで待っているしかない。午前・午後、各1パーティーの行動が限界という可能性もある。ロープとギア一式を稜線まで上げるので、満員御礼で退散したくない(ギャラリーに失敗を見られたくないというのも・・)。決行は閑散期に限る。

 6/27(土) 4:20、新穂高の登山者用駐車場発。晴れ。50リッターザックにロープ2本とフラットソールを用意。アイゼンなし・夏靴で、雪渓対策は、ハンマー兼用のアイスバイルのほか、サングラスと日焼け止めだけという「軽装」だが(防寒具も持たない)、支点の状況がわからず、長めのピッチを想定してカラビナ類を増やしたこともあって、ギアが重い。8:30頃、槍平(小屋は営業を開始していた)。飛騨沢の雪渓を登り(夏靴だと歩きにくい)、11:45槍ヶ岳山荘着。
 アプローチをさがして右往左往しつつも、取り付き(曾孫槍とのコル)へ。フラットソールに履き替える。いつもなら、サブザックをロープ用にするのだが、今回はロープ2本なので、メインザックにロープ(1本は登りながら引き出せるように、もう1本は畳んだまま)。サブザックには、不要な装備(水のほかはヘッデンなどの小物だけ)と脱いだ靴を押し込んで、スリングで岩角に吊り下げる(落石で靴を破損したら下山できなくなる)。アプローチと準備で1h以上もかかっている(13:00頃)。
 コル直下の支点にロープ下端を固定。マッシャーで長さを調整して、ロープを繰り出しながら登る。下部は80度ほどの傾斜で、ロープ操作に片手しか使えない。ロープを伸ばせなくなって、セミになるトラブルもあり、速度が上がらないが、こんな場所では、撤退も容易でない(懸垂用にセットするだけでも、両手が使える場所でなければ難しい)。少し登ると、やや傾斜が緩む(60度から70度)。こうなると初心者は速い。ロープを30m〜35mほど出したところで、山頂の一角(東端、大槍側)に到着する。
 山頂は、東端(大槍側)を頂点とする細長い二等辺三角形で、東側はやせ尾根状だが、西側は幅があって、小さなテントが使えるぐらいの平地もある。アルペン踊りは知らないが、ラジオ体操なら4人ぐらい可能。意外に広い(浮石注意だがロープなしで歩き回ることができる)。槍ヶ岳山荘が目の高さに見えることもあって、不思議に高度感を感じない。
 10分ほど休憩し下降開始。問題はロープの使い方。ロープは半分以上出ているので、折り返したら下まで届かない。もう1本のロープを連結するのが順当な作戦だが(そのためにロープ2本を持ち込んだ)、そうすると結び目で引っかかりやすくなって(人間にとって登りやすい壁は、ロープにとっては引っかかりやすい)、回収不能のリスクがある。パズルを解くような問題だが、途中の支点状況を考え合わせた結果、登りに使ったロープで降りることにする。このロープは、あと15mほど余っているので、これを支点で折り返すと、15mだけは降りられる。この間に、別の支点でロープを架け替える作戦である。
 山頂の懸垂支点から約10m下降し、途中にあった支点(登りでは使わなかった)でロープを架け替える。下降中にロープのセンターマークを確認しているので、下からここまで25m以下。ここで折り返すとロープは下まで届くことになる。屈曲したラインに振り子トラバースを交えながら、ランニングのカラビナを回収して(ロープをクリップしているので、回収忘れがあると宙吊りになる)、開始点に戻る。靴を履き替え、往路を槍ヶ岳山荘に(14:30)。小屋泊は15人ほどで、予想どおり閑散。

 6/28(日) 装備が装備なので(縦走路に無用の荷物ばかり)、用が終わったら長居無用。曾孫槍・・大槍のルートも確かめたかったが、これは次の機会に。4:30発(朝食ヌキ)で下山、9:30に新穂高。曇り。(単独、ロープ9mmx50m2本他、アイスバイル)



赤岳天狗尾根(2009.6.13)

 夏装備の虫干しハイキングを計画(初見)。八ヶ岳の天狗尾根は積雪期コースだが、無雪期でも渡渉やブッシュに苦しんだという話もないので何とかなるだろう。数ヶ月ぶりの夏靴。

 6/13(土) ほぼ4:30、美し森駐車場発。青空も見えるが雲が多く、稜線はガスから見え隠れ。ゲートを越えて川俣林道へ。林道は分岐もあるが、途中から地獄谷(川俣川右俣)の谷筋に沿うので、地形を見れば間違う心配はない。やがて、河床に出会ったところで林道終点(地形図では、さらに奥まで林道が続いているが、現況不明)。この先は、沢筋を歩く。最初は伏流だが、何個か堰堤を越えた先から水流。やがて出会小屋(6:50)。
 出会小屋では、単独の男性が宿泊中。あいさつして出発(7:15)。付近でカモシカ目撃。すぐに地獄谷本谷が分岐する。赤岳沢に入る。水量は、対岸に飛び渡るのがやや難しい程度(靴を濡らす)。万一の稜線ビバークに備え、2リットルほど給水。約30分遡行した場所から天狗尾根に取り付く(マーキング多数)。潅木をつかみながら登ると(針葉樹の高木なので、ブッシュはひどくない)、30分足らずで尾根の上に乗るが(8:20)、尾根に出ても相変わらず急登(天狗尾根は、真教寺尾根の半分以下の長さで同等の高度をかせぐ急傾斜)。稜線では、やや風が強い。
 やがてカニのハサミ(中央部を登る)。そして、岩壁2個(高さ15mほど、左右から巻く)。その先は大天狗と名づけられた岩峰。右側から巻くが、巻き道開始点のテラスに上がるところは、スリップしたら谷底。どうせ中間支点が取れないと思って、ロープをループにして、残置ピトンに通す。落ちたら墜落率200%だが、一段登るだけ。数メートル歩くと足元が安定するので、ロープを引き抜いて回収。積雪期なら、アイゼンと手袋で登るルート。運動靴と素手なら難しいはずもない。岩が脆いので、慎重にホールドの強度をチェックするが、核心のホールドに対しては、年に何十人も同じことをしているはず。グラグラ動くことはあっても、はがれることはない。ここまで完全に無雪。カニのハサミから大天狗まで、直線距離で100m余り。コンパクトである。
 小天狗を巻きながら、稜線を歩いていると、足元にクサリ。何だ?と思ってよく見ると、キレットからの登山道と合流している(11:30)。約30分で文三郎道に。出会小屋から先、誰にも会わなかったが、山頂では10人以上がご休憩中。視界もないので、立ち止まらずにそのまま下山(12:00)。
 下山は真教寺尾根とする。樹林帯にわずかの残雪。約2hで牛首山基部の展望広場で何人かの観光客。リフト運転中だが、そのまま歩いて下ると、下ではレンゲツツジの見物らしい観光客が多数。15:20頃に駐車場着。あまり疲れていない。まだひと登りする余力がありそう。冬装備と大差ない重荷だが(アイゼン等はないが、水が重く、20kg超)、やはり、夏靴はラクに感じられる。(単独、テント装備・・使わなかった、ロープ9mmx50m他)



奥穂南稜(2009.6.6-6.7)

 まだまだ残雪期。奥穂南稜を計画。当日、上高地へのタクシーで聞いた情報では、この週末がウェストン祭。偶然だが、そんな日にウェストン初登ルートへ(初見)。

 6/6(土) ほぼ5:00、上高地をスタートして岳沢道に。ガスの切れ目から稜線が見え隠れ。南稜を観察すると、ルンゼは雪だが、その上のギャップは岩が露出、トリコニー基部は雪だが、トリコニーは露出・・というマダラ状態。周辺では、奥明神沢や天狗沢の雪渓は健在だが、西穂高沢は下半が切れている。
 7:00少し過ぎ、アイゼンを装着し、岳沢ヒュッテ跡から雪渓に。クレバスが開きかけている。滝沢大滝の30mほど手前で、アイゼンを外して南稜末端の岩に上がる。登路のルンゼは、少し進むと残置ピトンのある小さなギャップ。その上から雪。アイゼンをつけないまま登る。見下ろすと、単独行者が奥明神沢(または重太郎新道)の方向にそれて行くのが見える(穂高岳山荘までに見た唯一の人影)。
 ルンゼの雪が切れたあと、少し草付きを登ると、5mほどの崖にあたる(9:00頃)。右端から登る。スタンスが1〜2cmぐらいでやや細かい。運動靴なら楽勝だろうが、つま先に余裕のある冬用の皮靴では、足の指がかからず緊張(アイゼンは装着していない)。滝沢側に切れ落ちているので、慎重に乗り越える(残置ピトンがあるが、支点なら潅木からも取れる)。ハイマツの激ヤブと小さな雪面を越えると、トリコニー基部。露岩ではアイゼン傷でルート明確だが、1峰の頂部が厳しい。強引に登ると、1峰の1m手前の尖塔だったりする(登らなくても左から小さく巻けた)。
 下からは見えなかったが、トリコニーの上も雪で、2峰の裏は雪面が広がっている。結局、トリコニーは、上も下も雪で、岩峰だけが露出している状態。この雪面を登るべきなのか?(行き詰ったら?)トリコニー1峰から2峰は、極端に近く感じるが(感覚的には10m)、本当に2峰なのか?(1峰と思ったのは前衛峰でこれが本物の1峰かもしれない)。視界20mほどのガスに巻かれ、2峰らしいピークの裏側で、視界回復待ちの大休止(11:30-12:30)。
 待ってもガスが抜けないので、アイゼンをつけて偵察。登りたくなるのを抑えて、高度を変えないように雪面をトラバースしつつ、トリコニーの各峰を同定する。大休止していたのはやはり2峰(の裏側)で、その20m先にピーク。その先は切れているので、これが3峰。例の雪面は、斜上すると3峰から伸びている雪稜に吸収されている。登路はこの雪稜しかないと判断し、これを登りはじめる(13:00)。
 雪稜は、随所に露岩があるが、アイゼンをつけたまま通過。露出したガレになったのでアイゼンを外すと、すぐに「南稜の頭」の指導標。吊尾根の登山道に飛び出す(たぶん14:30頃)。奥穂山頂でテントを使おうかと迷うが、ポピュラーな場所なので遠慮して、穂高岳山荘に向かう(本当はビールを買いたかった)。途中でも雪が残っているのでやや時間がかかるが、16:00過ぎに到着する。

 6/7(日) 帰路は、天狗沢下降が早そうだが、奥穂山頂に登り返す元気も、雪や霜がついた状態で馬の背やジャンダルムを越える勇気もなく(前日夜から晴天で、気温が下がる)、アズキ沢からの下山とする。涸沢を経由して、昼頃、上高地に戻る。(単独、テント装備、ロープ9mmx50m他、アイゼン・ピッケル)



八右衛門沢から霞沢岳(2009.5.23-5.24)

 5月連休の明神岳からの下山途中、奥明神沢の下部からは、岳沢の対岸に西穂高沢や天狗沢。取り付いているパーティーが点のように。さらに、上高地に近づくと、六百山の山頂から中畠沢。幅も一定で(緩急の変化が少なそう)、高速道路のように見えた。やはり、残雪期には雪渓歩き・・と思って、今回は八右衛門沢の偵察に決める。崩壊しそうな雪庇もない西斜面。アプローチも至近で、楽ではないかと甘い期待。

 5/23(土) 帝国ホテル前のバス停から200mほど中の湯方向に戻ると、八右衛門沢橋。6:30頃、スタート。左岸の林道を歩く。この付近は無雪。不人気コースでアタリマエだが、周囲は無人。10分ほど歩くと、奇妙な鋼鉄の工作物(たぶん堰堤の一種)で林道終点。その20m先で沢は二俣。左は表六百沢。右に入る。
 この先も、堰堤をさらに何個か乗り越えるが、ほとんど土砂に埋まった堰堤を、通り過ぎてから見つけることもあるので、総数不明。土砂だけではなく、新芽を出したダケカンバが根こそぎ倒されて、沢に転がっている。すさまじい様相の沢である。雪渓末端で給水。雪渓も、トレースや遺留品を含め、人の気配がまったくない。
 正面にはK1から落ちる尾根上のピーク(地形図の2514峰)。このピークの基部、1900m付近で沢が左右に分かれる。本流は右で(左は三本槍沢)、2514峰を右から巻くように、やや右に屈曲して続いている。屈曲点の先あたりが最大傾斜。これを過ぎると、右岸(左方、2514峰の側面)に快適そうな岩場が見上げられる。その先も、2300m付近で沢が左右に分かれるが、中間の小尾根も含めて、どちらでも登れそう。右のほうがより少し高い位置で稜線に出るが、雪渓がつながっていたので、これを登る。ここまで容易というより安易。
 11:30頃、雪渓上端から、ほんの2mほどハイマツのブッシュをこぐと、稜線縦走路のK2のやや下に飛び出す。空身になって山頂往復。稜線はほとんど露出しているが、山頂直下に霞沢を見下ろす雪斜面が残っている。昼食休憩のあと、13:00頃に下山開始。八右衛門沢を下ればよかったが、未知ルートへの好奇心から徳本峠に向かう。K1の下りから雪に覆われるが問題ない(アイゼン無用)。しかし、ジャンクションピークの下り口で、ルートを見失う。どこかに九十九折の夏道があるのだろうが、雪がつくとすべて樹林帯の急雪面。腐った薄い雪。アイゼンも効かずステップを切ることもできない。樹間から方向を見定めつつ、斜度の緩い場所をつないで適当に下りていたが、最後はメンドウになって、ずるずるとロープを引きずる不快な懸垂を何回か。意外に時間がかかり、気がつくと17:00に近い。徳本峠からは、トレースもついた快適な雪渓下りだが、当日中の上高地脱出は厳しい。雪渓のやや上に露出した平坦地(たぶん夏道)を見つけ、テントを広げる。

 5/24(日) 早朝からやや強い雨だが、どうせ1h行程。雨の中でテントを撤収。明神経由で上高地へ。着いた頃に雨がやむ(単独、テント装備、ロープ9mmx50m他、アイゼン・ピッケル)



明神岳東稜(2009.5.2-5.3)

 北鎌尾根をねらっていたが、日程の都合で上高地の明神岳へ。明神岳東稜は、昨年秋(2008.9.20-9.21)、小雨の中を歩いている。天候に問題がなければ、1泊以内で楽勝・・と思ったが、無雪期と比べると、アイゼン・ピッケルだけでも重荷。ちょっと苦戦した。

 5/2(土) 5:00上高地スタート。明神から下宮川谷へ。この付近、随所に数十メートルサイズの固くなった融け残り雪渓があるだけで、ほとんど雪を踏まない。やがて通称宮川のコル(下宮川谷と上宮川谷の分水嶺)。斜面の角度も変るので、ここから広大な雪面。アイゼン装着。10:00少し前に長七のコル。ひょうたん池は雪の下。ここまで、他のパーティーを見ない(この日の一番乗りらしい)。立ち止まらずに、そのまま稜線に取り付く。
 第一ステップ(ひょうたん池のすぐ上の岩場)の抜け口、潅木の間をすり抜けるような急斜面のルンゼ状で手間取っていると(雪がハゲかけて下草が少し露出した斜面に、ロープを出そうかと迷ったが、ハーネス未装着・・)、若い男性2人パーティーに追いつかれる。そのまま約2h、13:30頃に2人パーティーに少し後れてラクダのコル(頂上の岩場直下)着。テント。
 その後、4パーティーが到着。計6張り。コルの平坦地はテントで満杯、1張りは又白谷側の雪斜面を切り出して張っている。また、夕方に到着した1パーティー(「K」・・横浜の有名山岳会の3人)は、奥明神沢のコルを目指してさらに前進らしい。前回(昨年秋)は誰にも会わなかったので、マイナーなルートと思い込んでいたが、予想外の大盛況。隣のテントの新潟から来たという2人パーティーにビールをご馳走になる(重いビールを運び上げたらしい・・感激!)。筆者も乾物を提供。まさか、こんな場所で宴会とは思わなかった。この日は終日晴れ。

 5/3(日) ぬれた手袋を乾かして・・など、少し手間取り、3番目ぐらいに出発(6:30)。高曇りだが、視界良好。数分で核心の岩場。先行パーティーが取り付いている。彼らの最後尾が登り始めてから、ロープを支点にフィックス。岩は完全に露出しているが、その上の斜面に雪がついているので、アイゼンのまま取り付く。手がかりはあるが、スタンスが細かい。小さなポケットにアイゼンのツメをかける。10メートルほどで岩を抜け、雪面を少し歩いて上の確保支点へ。これにロープ上端をフィックスし、懸垂で降りつつランニングを回収。下まで戻ると次のパーティーがお待ちかね。急いでロープ下端の固定を外して支点を明け渡す。アセンダー(ロープマンMk2)で登り返して(操作未習熟で厳しく感じた・・岩角でアセンダーを通せない)、ロープをたたむ。
 その上は、すばらしく急な雪面で恐怖心を誘うが、実際にはトレースつき階段登り。すぐに山頂(明神岳主峰)。奥明神沢のコルまで下りてから(コルの直前で懸垂1回)、ザックをデポ・・というより疲れて投げ出し、ハーネスも外し、右手にピッケル、左手に外したアイゼンをぶら下げて前穂山頂へ(稜線の岳沢側はほとんど露出しているが、前穂山頂直下は奥明神沢の雪渓につながる大きな雪面)。前穂山頂には無人のテント1張り(前穂の岩場にチャレンジ中か)。山頂で休憩中の女性(たぶん東稜)からトマトをご馳走に・・
 ちょっと休んでから、奥明神沢のコルに戻る。当初は、明神岳の主稜縦走も考えていたが、このあたりで体力の限界。奥明神沢を下降。ときどきヒザまでもぐるが、まあ快適。岳沢登山道の途中で雪渓が切れたので、夏道に。そのまま上高地へ(どんな時間の使い方をしたのか・・なぜか15時を過ぎていた)。(単独、テント装備、ロープ9mmx50m他、アイゼン・ピッケル)



白馬岳小蓮華尾根(2009.4.18-4.19)

 八ヶ岳(阿弥陀岳南稜)の重荷にこたえたので、今回は軽量ハイキングとしたい。省略するとすれば、テントかロープしかないが、この時期に小屋泊はコースが非常に限られる。ロープ不要のコースを選ぶしかない。

 4/18(土) 猿倉への道は冬季閉鎖。徒歩で1.5hほど手前の二股(松川の北股と南股の合流点)の発電所付近のゲートから車道歩き。猿倉までは完全に除雪されているが、車道外の林には雪が残っている。猿倉荘は休業中で無人。小屋の駐車スペースには除雪車が駐車してある。猿倉からは除雪されていないので、ここでアイゼン装着。
 雪は例年並み。樹林の一部を除いて、ワカンなしでもほとんどもぐりこまない。時期が微妙なので、沢を対岸に渡ることができれば、大雪渓を避けて小蓮華尾根に取り付きたい・・と思っていたが、堰堤のすぐ上まで雪渓が続いていて、問題なく小蓮華尾根へ。快晴(暑かった)。
 稜線が視界に入るようになると、数人のスキーヤーが点のように見える。栂池から小蓮華・白馬乗鞍間の稜線までの往復らしい。樹林帯を抜けると、モナカ雪に沈むようになったので、ワカンに換装(スキーがうらやましい)。太陽にジリジリと焼かれながら、14:00頃に小蓮華山頂。超不人気ルートらしく、ここまでトレースもマーキングもまったくない(何の刺激もないので、雪崩の危険でもなければわざわざ登る人はいないだろう)。
 下から小さな雪煙が見えていたが、稜線はちょっとした風。歩くのに何の支障も ない程度だが、単独でテントを扱うのは風にあおられて無理。白馬大池の底(雪におおわれて水面はない)まで移動。ここでテント。池の底でも強風で、テントの布があおられるので、テントの中でストーブを扱えない。生のインスタントラーメンをそのままかじって寝るが、水も作れないので、やや脱水症状。

 4/19(日) 風の中、苦労してテントをたたむ。本体とフライを重ねてたたんで、ひとつの袋に収納する形式のテントは、強風でお手上げ。本体を押さえている間に、フライを飛ばされてしまう。とてもじゃないが、「重ねてたたむ」など無理。手を抜かず、本体とフライを別の袋にして欲しい。
 モチベーションに乏しく、このまま下山しようかとも考えたが、とりあえず山頂へ。稜線はまだ雪に覆われている。何ヶ所かの滑走開始点にスキーの痕跡がある。主稜からのトレースはあったが、山頂は無人。往路を下山。(単独、テント装備、アイゼン・ピッケルとワカン)



阿弥陀岳南稜(2009.3.20-3.21)

 この時期、八ヶ岳はアクセスも便利(夏とほとんど同じアプローチ、しかも東京から至近)でお手ごろな山域。前週(3.15)にも、美濃戸口周回で、赤岳から硫黄岳までの軽装日帰りハイキング。この週は、テント装備で阿弥陀岳南稜とした。ちょうど1年前、2008.3.22-にガイドパーティーに参加しているので既知ルート。雪が薄いとリスキーだが、前週の状態なら問題なさそう。

 3/20(金、春分の日) 6:00頃、舟山十字路(という名前のT字路)を旭小屋方向へ出発。林道の水場で給水(これは大失敗、翌日には氷になってタダの荷物)。晴れ。
 尾根下部は、雪と露出した木の根のミックス。凍結した部分もあるが、アイゼンなしのほうが歩きやすい。立場山のピーク先の樹林に無人のツエルトがある。ペグ代わりに、ワカン2足分を雪に埋めているので、2人パーティーか。住人はお散歩中らしい。
 青ナギ付近で樹林が切れると、モナカ雪に沈むようになる。ワカン装着。ここではアイゼン無用だが、すぐに必要になるはずと考えて、アイゼンとワカンの重ね履きにした(この日は重ね履きのまま終日歩いた)。この付近で、空身の男女2人のパーティーとすれ違う。例のツエルトの住人らしい。ワカンをツエルトに放置したままなので、数歩ごとにヒザ上まで沈み込んで苦戦しておられるのが遠目にもわかった。「p3を偵察したが登路がわからない」とのこと。彼らと別れて、p1先のコルまで進んでテント(筆者のテント1張りだけ)。

 3/21(土) 6:30、テントをたたんでいると、前日の2人パーティーがご来訪。念のためにハーネスを装着してから、先行させてもらう。雪の上には、2人パーティーの前日の足跡。これを追って行くと、このパーティーがルートを見失った理由がすぐにわかった。p3と思い込んで、p2基部を広河原沢の方向に回り込んでしまったらしい(p2はやや左寄りを通過するが、基部まで下がらずにピークへ抜ける)。ここから先はトレースがないが、雪はたっぷりあって、締まっている。p3下のトラバースは、どうせ数メートルなので、慎重に歩くだけ。p3のルンゼ状を登ると稜線。不安を感じるような雪ではないので、ロープを出さなかった(スノーバー1本しかないから、仮に出してもほとんどランニングが取れない・・しかし、50mで届くか確認すべきだったか)。30分で阿弥陀岳山頂。風はあるが快晴。
 舟山十字路にクルマを駐めているので、下山は御小屋尾根とする。美濃戸口に下りるという2人パーティーも、途中まで同じルート。御小屋尾根の途中で2人パーティーと別れ、虎姫神社(何だそれは?)と書かれた指導標に導かれ、ほぼ正午頃に下山(御小屋尾根は長かった)。(単独、テント装備、ロープ9mmx50m他・・タダの荷物、アイゼン・ピッケルとワカン)


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